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森に捧げた人生

                                  

2月は衣更着(きさらぎ)と言われる季節だけあって、温暖化とは無縁のような寒さが

山深い本川では続いています。

 寒さのせいか、森の中から小鳥やお猿さんなどの声もまだ部屋には届いて来なくて、

耳底が痛くなるような静けさです。窓から見える色彩も少なく、庭先の赤いナンテンの実と

北風に磨かれた木々の枝が、射し始めた朝日にあたって白く輝いているくらいです。

 

寒々しい景色ですが、それでも立春の声を聞くだけで、心のなかの花畑に春の陽差しが

あたったようです。この歳になっても、梅のつぼみが日ごとに大きくなってくるのを見る

のも喜びだし、道端の雪の中から出ようとしているフキノトウを見つけてもほっこりします。

山の暮らしはすべてを満たしてはくれませんが、満たされないからこそ見える小さな

幸せがいくつもあります。大きな幸せ一つよりも僕はより尊く思えます。

 

春を待ちかねる気持ちが若いころと同じように今も残っていることは有難いことであり、

日々単調な山暮らしのなかではかけがえのないものです。

森づくりを始めて40年あまり。人生の半分を森に捧げてたどりついた今の心境です。

                        写真は、いの町寺川「おおたびの滝」

 *この文は令和8年2月7日の高知新聞に掲載されました。